今回は「認知症の方が塗り絵を複数人で行うメリット」について、
作業療法士の経験を元にご紹介します。
結論から言いますと、
・新しい社会関係を構築できる
・自己効力感を高める事ができる
・新しい習慣を構築できる
になります。
新しい社会関係を構築できる
病院・施設に入られている対象者の方(以下、クライエント)は年齢を問わず、これまでに仕事や趣味を通して社会関係を築かれてきたのではないでしょうか。
仕事・趣味仲間といった具合です。
しかし、病気や障害が原因となり、それらの関係が途絶えている方が少なくない状況にあります。
また身体・認知機能が著しく低下しているクライエントは、新しい社会関係を築く事に困難を強いられるのではないでしょうか。
例えば脳梗塞を発症し、失語症(ここでは細かな分類は省略しますが)により言葉の伝達や理解力が低下すると、複雑なコミュニケーションが難しくなります。
相手が理解のある方であれば、時間を掛けて関係を深め合う事は容易かもしれません。せっかちな方や病気の理解に乏しい方であれば、より困難さが増します。
そうなった場合に、その環境での生活は楽しみの欠如したものになる可能性があるんです。
そこで塗り絵を用いる事で、直接言葉でのコミュニケーションを行わず、塗り絵を通したコミュニケーションが行えます。
つまり、
クライエント⇆塗り絵⇆関係を構築する相手
になる訳ですね。
塗り絵を通して課題の進み具合や、結果の良し悪し等を話し合う事ができ、
ワンクッションを置く事で、関係性構築の難易度を下げる事が可能となります。
言語だけのコミュニケーションではなく、その環境を含めたコミュニケーションを行う訳です。
ここで注意したいのが、ワンクッション置いた場合でも、個人個人で性格や生きてきた背景は異なります。
周囲のスタッフが場所をセッティングできるのであれば、あらかじめクライエントと性格が合いそうな方を近くに配置したり、同性で固めたりといった調整を行っても良いです。
上手く行けば塗り絵を介さなくても、表情や単語レベルの会話での意思疎通で関係性を維持する事へ繋げていけます。
自己効力感を高める事ができる
病気や障害により、「もう何もできない」といった発言をするクライエントは珍しくはありません。
しかし、同じ境遇の方と課題をしたり、他者から褒められたりする事で、その発言が変わる場合があります。
自己効力感を提唱したアルバート・バンデューラは
成功体験や代理的説得、といった自己効力感を高める方法を上げています。
クライエント自身が課題を達成することや、一緒に行う相手の取り組みを見て、課題に対する考え方や気持ちに変化を促します。
注意点はこれも個人によっては逆効果もあり得ます。
技能以上の課題を行うと落ち込みが激しいクライエントもみえるので、ケースバイケースで臨機応変な対応が必要です。
新しい習慣を構築できる
作業療法士として「作業バランス」という用語を使う場合があり、
人が行う作業は仕事・遊び・レジャー・セルフケア・睡眠・休息等から構成されており、それらが日常の生活で偏りがないか、といった様な視点で見ていきます。
作業バランスが崩れていれば、それに対して介入する場合があります。
例えば一日中ベッドで横になる生活をしていれば、習慣は休息が大半を占める事になります。
その場合は仕事や余暇がほとんど行われず、その人の健康や幸福の度合いは低くなる場合が予測されます。
そこで塗り絵を他の方、特に仲の良い方と一緒に行う事で、
「〜〜さんが来るからリハビリ室に行こうかな」
と動機付けとなり、それが繰り返される事で徐々に習慣となり、離床が進み体力がつく、といった様に他の場面で好影響が現れます。
但し、今後はそればかり気にしすぎて、他の事はおろそかにならない様に気をつけてもらいましょう。
まとめ
最後にまとめると「認知症の方が塗り絵を複数人で行うメリット」は
・新しい社会関係を構築できる
・自己効力感を高める事ができる
・新しい習慣を構築できる
です。
塗り絵を通してクライエントの健康や幸福に繋がるといいですね。
是非、試してみてください。